小児科に来る子ども達が、注射の次に嫌がるのは「お口あーん」です。舌圧子(ぜつあつし・舌を押さえるのに用いるへら状の医療器具)で押さえられると、おえってなる咽頭反射が苦手のようです。幼稚園くらいの子どもが「先生、今日お口あーんなしね」というのは可愛いものですが、中にはお母さんに「先生、この子はお口あーんが無理なのでよろしくお願いします」なんて言われることがあります。よくよく聞くと、近くのお医者さんは舌圧子を使わない優しい先生なんだそうで。
私が舌圧子を使うのは、ある忘れられない経験のためです。10年以上前、ある病院で当直中のこと。夜7時過ぎ、1歳の男の子がやって来ました。急にご飯を食べなくなったとの訴え。発熱なく、呼吸も心音も問題なし。おとなしくお母さんの膝に座っています。全くわからないまま舌圧子でお口をのぞいたら…喉の奥が真っ白!白いシールが咽頭にピッタリくっついていました。そのシールは、紙ではなくフィルム状のプラスチック。おそらく喉に違和感があるためご飯を食べなくなったのでしょう。
もし、あのとき舌圧子を使わず喉の異物に気付かなかったら…窒息していたかもしれません。
時には嘔吐してしまう嫌な診察とわかっていますが、アデノウイルス、溶連菌など喉の所見が決め手になる疾患もあります。ご理解のほどよろしくお願いします。
(エコチル京都UC・学研都市病院小児科医/渡部 基信)
2016年5月16日配信