「遺伝」っていうと、みなさんはどのようなことを思い浮かべるでしょうか。「性格はお母さんに似ているが、顔はお父さんに似ている」「自分が禿げたのはおじいさんからの隔世遺伝だ」などと似たところを受け継いでいる状況を表現する言葉として用いられることが多いと思いますが、「病気が遺伝してしまった」「うちの子が勉強できないのは私からの遺伝のせい」などとネガティブなイメージで使われることが比較的多いと思います。
でも、これらは「遺伝」の一面を見ているにすぎません。ヒトは99.9%の遺伝情報を共有していると言われますが、0.1%の“違い”があるからこそ、個性という多様性が生まれ、そこに様々な価値や感情が生み出されます。ヒトの遺伝情報がみな同じクローンと呼ばれる状態であったとしたら、世界の80億近い人たちが外観も性格も同じかもしれません。これほどおぞましい世界はないでしょう。
そういった“違い”の中で病気の原因となるものや将来の病気の予測につながるものが、少しずつ分かるようになってきています。まだ分かっていないことがたくさんある医療分野ではありますが、遺伝子を標的とした新しい治療法開発は近年めまぐるしい勢いで進んでいます。これまで診断がつかず治療法のなかった病気が、診断法や治療法の確立された病気に変わる日がすぐそこまで来ているのかもしれません。
京都大学医学研究科 ゲノム医療学/川崎 秀徳(臨床遺伝専門医)
2022年6月24日更新